この記事でわかること
- 薬膳で潤す秋の身体
- 心と身体のセラピー
2026年10月8日、二十四節気の寒露。10月23日には霜降を迎えます。露が冷たくなり、やがて霜に変わるこの十五日間に、心と身体はひそやかに揺らぎはじめます。

それは気のせいではありません。日照時間の減少にともなって、脳内の神経伝達物質セロトニンの分泌量が変化することが、複数の神経科学研究で確認されています。セロトニンは気分の安定や睡眠の質に深く関わる物質で、その合成には太陽光の刺激が欠かせません。秋の入り口で、なんとなく気持ちが沈む、朝起きるのがつらい、甘いものが無性に食べたくなる。そうした変化の裏には、光と脳の静かな対話があるのです。

東洋医学はこの季節の揺らぎを、五行思想の「金」の気として読み解いてきました。秋は五臓のうち「肺」が主役となり、「燥邪」と呼ばれる乾燥がもっとも肺を脅かす時季です。寒露のころから空気は急速に乾き、喉や鼻の粘膜が敏感になり、肌のかさつきや空咳を感じる方も多いでしょう。現代の生理学でいえば、気温の低下が自律神経の切り替えを促し、交感神経が優位になることで末梢の血管が収縮しはじめる時期と重なります。

薬膳で潤す秋の身体
東洋医学が「肺を潤す白い食材」として大切にしてきたものたちは、栄養学の目で見てもじつに理にかなっています。
梨は水分が豊富で、カリウムとソルビトールを含み、喉の炎症をおだやかに鎮めます。蓮根にはムチンとタンニンが含まれ、粘膜を保護しながら抗酸化作用を発揮します。百合根は良質な澱粉とカリウムに加え、水溶性食物繊維を豊富に含み、腸内環境の調整にもはたらきます。白きくらげは食物繊維の宝庫で、植物性の多糖体を含むことから、肌の保湿を内側から支えるとされています。山芋に含まれるジオスゲニンは、近年の研究で認知機能への関与が示唆されている注目の成分です。
そして、ここにひとつ加えたいのが、セロトニンの材料となるトリプトファンを多く含む食材たちです。大豆製品、卵、乳製品は、トリプトファンとビタミンB6を同時に摂取できます。セロトニンの合成にはトリプトファン、ビタミンB6、そしてブドウ糖の三つが揃う必要があります。朝食に温かい豆乳と蜂蜜を合わせるだけで、この三要素が自然にそろうのです。

薬膳の「白い食材で肺を潤す」という知恵と、栄養学の「トリプトファンでセロトニンを補う」という知見。東洋と西洋、二つの処方箋が、寒露の食卓で静かに重なります。
心と身体のセラピー
秋の養生は、食だけでは完結しません。
寒露から霜降へ気温が下がる時期、就寝90分前の入浴が自律神経の調律に効果的です。40度前後のぬるめのお湯に15分ほど浸かると、いったん上がった深部体温が就寝時にすとんと下がり、この落差が副交感神経への切り替えスイッチになります。睡眠研究の分野でも、この「深部体温の落差」が入眠の質を左右することが繰り返し示されています。

呼吸もまた、秋の処方箋です。4秒吸って、7秒止めて、8秒かけてゆっくり吐く。この「4-7-8呼吸法」は、長い呼気が迷走神経を刺激し、副交感神経を優位にすることで、心拍と血圧をおだやかに整えます。五行思想で秋が「金」、すなわち呼吸を司る季節であることと、現代の自律神経科学が同じ答えにたどりつくのは、ふしぎな符合です。
もうひとつ、心理学の知見から。認知行動療法の世界では、「秋は終わりの季節」という無意識の認知フレームが気分の落ち込みを増幅させることが知られています。「秋は実りの季節」「冬に向けた準備の季節」と意識的にリフレーミングするだけで、ネガティブな反芻思考がやわらぐという報告があります。寒露の朝、空を見上げて秋の光を5分間浴びること。それだけでセロトニンの分泌が促され、身体の内側から一日がそっと動きはじめます。
むすびに
寒露から霜降への十五日間は、秋がもっとも深く、もっとも美しく移ろう時間です。
東洋医学が何千年もかけて磨いてきた養生の知恵と、現代の脳科学や生理学が明らかにしたメカニズム。二つの流れは、じつは同じ川の上流と下流のようなものなのかもしれません。白い食材で肺を潤し、トリプトファンで脳をおだやかに保ち、呼吸で自律神経を整え、温かなお風呂で身体をゆるめる。どれも特別なことではなく、台所と浴室でできる、ささやかな養生です。
mocoの「時を超えて愛される、東洋の叡智 ~薬膳セラピーで巡る、美と健康の旅~」では、薬膳セラピーと東洋の叡智をもっと深く、日々の暮らしのなかで実践する方法をお届けしています。体質別の薬膳レシピや、五感を満たすセラピーの世界に、そっと足を踏み入れてみてください。

今日の処方箋
- 白い食材をひとつ、今日の食卓に加えてみましょう。梨、蓮根、百合根、山芋、白きくらげ、どれかひとつで大丈夫です
- 朝食に温かい豆乳と蜂蜜を一杯。セロトニンの材料が自然にそろいます
- 就寝90分前に、40度のお湯で15分の入浴を。深部体温の落差が、眠りへの橋を架けてくれます
- 眠る前に「4-7-8呼吸法」を3回。4秒吸って、7秒止めて、8秒でゆっくり吐きます
- 朝、空を見上げて秋の光を5分間浴びましょう。セロトニンは朝の光で活性化します
この記事で触れた知見についてもっと知りたい方は、心理学入門をご覧ください。
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※本記事の内容は養生の参考としてお読みください。健康上の判断はご自身の意思と専門家への相談を優先してください。

白きくらげのスープを仕込みながら、五行と栄養学のノートを照らし合わせていました。東洋医学が「白で肺を潤す」と言い、栄養学が「トリプトファンでセロトニンを補う」と言う——二つの知恵が秋の食卓で重なる瞬間は、何度出会っても小さな感動があります。4-7-8呼吸法も、寝る前に試してみてくださいね。
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