梅花易数・タロット・カバラ数秘術・奇門遁甲で読む
私は今回、放送日から卦を立てて、その爻辞に思わず息を呑みました。
出たのは、雷地豫(らいちよ)。動いたのは上六。その言葉は、こうです。
「成るも渝(かわ)ること有り、咎(とが)なし」
すでに完成したものであっても、変わることがある。そしてそれは、咎められることではない。
八百八十八話という、ギネス世界記録の金字塔がそびえる作品を、令和にリブートする。その挑戦を、易は静かに肯定していました。
今日は、亀梨和也さんの時代劇への挑戦を、四つの占術から読み解いてまいります。
何が起きたのか
七月二十四日、都内でNHKスペシャル時代劇『銭形平次』の取材会が行われ、主演の亀梨和也さん(40)が、共演の奥智哉さん、生田絵梨花さん、後藤剛範さん、高橋克実さんとともに出席しました。
作品は、NHKが東映とタッグを組んで制作したスペシャル時代劇です。本年三月二十三日にBS8Kで先行放送され、八月二十一日午後十時から、NHK総合で放送されます。
舞台は、江戸の文化文政時代。町人文化が花開いた寛政時代を経て、拝金主義と藩政の堕落が進み、犯罪が増加した、享楽的で退廃的な世の中です。その中で、並外れた身体能力と頭脳から「捕り物の天才」と呼ばれた一介の岡っ引き、銭形平次。彼がその名を江戸中に響かせるに至った、ある大事件が描かれます。
亀梨さん演じる平次は、とび職の経験を生かして岡っ引きとして活躍する一方、事件に出くわすと隅々まで調べ尽くさないと気が済まない「捜査オタク」の一面を持ち、独学でオランダ語を読めるようになった人物として設定されています。
そして、この日の言葉です。
オファーを受けたときを振り返り、亀梨さんはこう語りました。
「ワクワクすると同時に、これだけ有名な作品に、まさか平次という役を演じることになるとは想像していなかったので、どのようになるのかなという思いでした」
時代劇の大変さについては、率直です。
「準備であったり、セリフの言い回しであったり、比重が現代劇より圧倒的に重いなというのは感じております」
そして、平次の必殺技である銭投げについて。
「僕は野球をかじっていたので、投げるということに関しては原理はなんとなくわかる」
野球好きで知られる方らしい、頼もしい一言でした。
共演の高橋克実さんは、こう評しています。
「まさにピッタリ。現場でお会いした初日から、カツラがよく似合うし、目つきが素晴らしかった」
「銭形平次」という、大きすぎる名前
占う前に、この役がどれほど重いものかを、確認しておかなければなりません。
原作は、作家・野村胡堂が一九三一年から書き始めた『銭形平次捕物控』。二十六年にわたって書き継がれ、全三百八十三編に及びました。
そして映像の世界には、途方もない記録が存在します。
大川橋蔵さん主演の『銭形平次』は、一九六六年五月四日から一九八四年四月四日まで、フジテレビ系列で放送されました。その総話数、八百八十八話。ドラマ史上最長として、ギネスブックに世界記録として認定されています。最高視聴率は三十五・五パーセントに達しました。
十八年間、毎週水曜の夜八時に、同じ人が同じ役を演じ続けた。
その上に、令和の平次が立つのです。
亀梨さんが「まさか自分が」と言い、「大きなプレッシャー」と語ったのも、当然のことでしょう。
そして、ここが今回の占いの出発点になります。
完成されたものを、作り直してよいのか。
梅花易数で読む|雷地豫、そして「成るも渝ること有り」
放送日である八月二十一日、その日と放送時刻から卦を立てました。
丙午の年の支の数に、月と日を足して上卦を求めると、震(雷)。さらに午後十時、亥の刻の数を加えて下卦を求めると、坤(地)。
上が雷、下が地。この組み合わせが表す卦は、雷地豫です。
豫の卦の象辞は、こう説きます。
「雷、地を出でて奮う。豫」
地面の下に潜んでいたエネルギーが、ついに地上へ出て、轟き渡る。それが豫の姿です。
そして豫という字には、三つの意味が重なっています。
ひとつは、よろこび。ひとつは、たのしみ。そしてもうひとつが、そなえ、つまり準備です。
「準備であったり、セリフの言い回しであったり、比重が現代劇より圧倒的に重い」
亀梨さんのこの言葉を、もう一度ご覧ください。
準備の卦です。しかも、その準備は喜びと同じ字で書かれています。大変だけれど、ワクワクする。彼が取材会で語った二つの感情が、一文字の中に同居していました。
さらに、豫の卦にはもうひとつの顔があります。象辞の続きにはこうあります。
「先王もって楽を作り、徳を崇ぶ」
古代の王は、この卦に則って音楽を作り、徳を讃えたというのです。豫は、音楽の卦でもあります。
俳優であり、歌い手でもある人が主演する作品に、音楽の卦が立ちました。
そして、動いた爻です。
動いたのは上六、いちばん上の爻でした。その辞は、こうです。
「冥豫(めいよ)、成るも渝(かわ)ること有り、咎なし」
暗がりの中の悦び。すでに成ったものであっても、変わることがある。それは咎められない。
すでに成ったものであっても、変わることがある。
八百八十八話という、これ以上ないほど完成された形があります。それでも、変わってよい。作り直してよい。易は、そう言っているように読めました。
そして之卦、つまり変化した後の卦は、坤為地でした。
坤は、純粋な陰。大地そのものです。坤の教えは「厚徳載物」、徳を厚くして万物を載せる、というもの。何が置かれても、大地は拒みません。すべてを受け止め、その上に載せます。
雷が地から出て轟き、そして最後は、すべてを載せる大地へ還る。
新しい平次が世に出て、やがてそれもまた、この作品の長い歴史の上に、静かに載せられていく。そういう流れに見えました。
タロットで読む|塔、死神、そして節制
大アルカナから、三枚を引きました。
正直に申し上げると、最初の二枚を見たとき、少し身構えました。世間では「怖いカード」と呼ばれがちな二枚が並んだからです。
けれど読み進めるうちに、これほどこの企画にふさわしい三枚もない、と思うようになりました。
俳優・亀梨和也さん……塔(XVI)
塔は、雷が落ちて塔が崩れるカードです。
たしかに衝撃のカードです。けれど塔が象徴するのは、破滅ではありません。それまで自分を支えていた構造が崩れ、そこから自由になることです。
塔の中にいるあいだ、人は守られています。同時に、閉じ込められてもいます。壁が崩れて初めて、外の景色が見える。
長く所属した枠組みを離れ、いま一人の俳優として立っている方に、このカードが出ました。
そして思い出してください。梅花易数で出た卦の上半分は、震、すなわち雷でした。
塔のカードに落ちるのも、雷です。
銭形平次という役……死神(XIII)
役の位置に出たのが、死神でした。
死神のカードが意味するのは、単なる終わりではありません。一度きちんと終わらせて、そこから新しく生まれ直すこと、つまり変容です。
大鎌は、実った麦を刈るための道具です。刈らなければ、次の種は蒔けません。
今回の企画は、令和の感覚でのリブートです。リブートとは、一度終わらせて、始め直すこと。
死神は、リブートのカードなのです。
八百八十八話の平次を否定するのではありません。あれはあれで完結した。そのうえで、次の種を蒔く。死神のカードは、そういう作業を指しています。
この挑戦が生むもの……節制(XIV)
そして、結果の位置に出たのが、節制でした。
節制のカードには、天使が二つの杯を持ち、片方からもう片方へ、水を注ぎ続ける姿が描かれています。混ざり合い、行き来し、ちょうどよい配合を探している。
節制が象徴するのは、異なるものを混ぜ合わせ、調和させることです。
時代劇という古い器と、令和の感覚。伝統的な所作と、アクティブでスタイリッシュな演出。長く愛されてきた平次像と、捜査オタクでオランダ語を読む新しい平次。
この企画そのものが、節制の作業です。
塔で構造が崩れ、死神で一度終わり、節制で新しく混ぜ合わせる。
三枚は、リブートという営みを、これ以上ないほど正確に描いていました。
カバラ数秘術で読む|ケセドの人が、ビナーの日に
カバラ数秘術で、生年月日を生命の樹のセフィラに対応させます。
亀梨和也さんは、一九八六年二月二十三日生まれ。数を還元すると、セフィラは4、ケセドでした。
ケセドは「慈悲」と訳されます。生命の樹においては、右側の「慈悲の柱」に属する球体です。
ケセドが象徴するのは、寛大さ、拡大、そして与えることです。惜しみなく差し出し、器を大きく広げていく力。対応する天体は木星、拡大と発展の星です。
役に自分を注ぎ込む仕事において、ケセドの人は強い。出し惜しみをしないからです。
そして興味深いことに、放送日である二〇二六年八月二十一日を還元すると、セフィラは3、ビナーでした。
ビナーは「理解」と訳され、左側の「峻厳の柱」に属します。ビナーが司るのは、形を与えることです。かたちのない知恵に輪郭を与え、この世に存在できる姿にする、母なる知性とされます。
拡大する人が、形を与える日に立つ。
ケセドの寛大さで注ぎ込んだものが、ビナーの日に、ひとつの作品という形をとって世に出る。慈悲の柱と峻厳の柱、その両方が関わってはじめて、作品は生まれます。
配置としては、とても健やかだと思いました。
奇門遁甲で読む|銭を、どこへ投げるか
最後に、奇門遁甲です。今回は盤を細かく立てるのではなく、八門の象意を、この挑戦を照らす言葉として用います。
そもそも奇門遁甲とは、時と方位を選び、狙いを定めて事を成す術です。
でたらめに動くのではありません。いつ、どちらへ向かって放つか。それを計算する術です。
平次の銭投げも、同じです。ただ強く投げればよいのではなく、狙いを定めて放つ。
「僕は野球をかじっていたので、投げるということに関しては原理はなんとなくわかる」
投げることの原理を知っている人が、狙いを定める役を演じる。奇門遁甲的に言えば、これは相性のよい組み合わせです。
八つの門のうち、この作品にもっとも関わるのは、景門でしょう。
景門は南、離宮に配される門です。離は火であり、光であり、明るさを司ります。景門が象徴するのは、見せること、輝くこと、そして印象を残すことです。文書や宣伝、芸能に関わる門とされます。
華やかな見せ場を持つ役を、多くの人の前で演じる。まさに景門の仕事です。
そしてもうひとつ、開門があります。
開門は西北、乾宮の門。道を切り開き、新しい局面を始める門です。八門の中でも最上級の吉門とされます。
令和の平次という、まだ誰も見たことのない像を打ち出す。これは開門の仕事です。
景門で見せ、開門で切り開く。
古い型をなぞるのではなく、新しい的を定めて、そこへ銭を放つ。この挑戦の性質を、二つの門はよく表しているように思いました。
まとめ
四つの占術が示したことを、整理します。
梅花易数は、放送日に「雷地豫」が立ったことを教えました。準備と悦びが同じ字で書かれる卦であり、音楽の卦でもあります。そして動爻は「成るも渝ること有り、咎なし」と告げました。完成されたものを作り直すことへの、静かな肯定です。
タロットは、塔・死神・節制という三枚を並べました。構造が崩れ、一度終わり、そして新しく混ぜ合わせる。リブートという営みそのものです。
カバラ数秘術は、彼が「ケセド」、惜しみなく与え広げる人であり、その作品が「ビナー」、形を与える日に世に出ることを示しました。
そして奇門遁甲は、狙いを定めて放つという、銭投げと占術に共通する構造を照らしました。
雷は、地から出ます。
地面の下でずっと蓄えられていた力が、ある日、地表を破って轟く。豫の卦が描くのは、そういう瞬間です。
一九三一年に生まれた物語が、九十五年の時を経て、また地上へ出てこようとしています。
八百八十八話という金字塔は、これからも動きません。それは変わらずそこにあります。
けれど、その隣に、新しい塔が建ってはいけないという理由も、どこにもないのです。
「成るも渝ること有り、咎なし」
八月二十一日の夜十時。令和の平次が、最初の銭を放ちます。
その一投がどこへ届くのか、私は静かに見届けたいと思います。
今回使用した占術について
梅花易数(ばいかえきすう)は、その瞬間の年月日時などの数から卦を立てる易占の一派です。北宋の邵康節が体系化したと伝えられます。「雷地豫」は、雷が地から出て奮う象で、よろこび・たのしみ・そなえの三つの意味を持ち、音楽の卦ともされます。動いた爻から未来の卦(之卦)へ転じる過程に、変化の方向を読みます。
タロットは、七十八枚のカードで状況を読む占術です。今回は象徴性の強い大アルカナを用いました。塔は既存の構造からの解放を、死神は終わりと再生による変容を、節制は異なるものを混ぜ合わせる調和を象徴します。
カバラ数秘術(かばらすうひじゅつ)は、ユダヤ神秘思想の生命の樹(セフィロトの樹)にもとづく数秘術です。生年月日の数を十のセフィラに対応させて読みます。ケセドは慈悲と拡大を、ビナーは理解と形を与えることを象徴し、それぞれ慈悲の柱、峻厳の柱に属します。
奇門遁甲(きもんとんこう)は、時と方位を選んで事を成す中国の占術です。八つの方位に「八門」を配し、その門の性質から行為の質を読みます。景門は光と表現を、開門は道を切り開くことを司ります。
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